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最高裁判所第三小法廷 平成4年(行ツ)14号 判決 1992年4月28日

仙台市青葉区川内(番地なし)

上告人

財団法人 半導体研究振興会

右代表者理事

岡村進

右訴訟代理人弁護士

栗宇一樹

飯田秀郷

赤堀文信

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 深沢亘

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行ケ)第二二八号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年九月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人栗宇一樹、同飯田秀郷、同赤堀文信の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎)

(平成四年(行ツ)第一四号 上告人 財団法人半導体研究振興会)

上告代理人栗宇一樹、同飯田秀郷、同赤堀文信の上告理由

原判決には、以下述べるとおり当業者の技術水準の認識を誤り、若しくは、当業者の技術水準の判断について経験則に違背し、又は、特許法二九条二項の解釈適用を誤ったか若しくは採証法則違背、審理不尽、理由不備の違法があると言うべきであり、この違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

一、はじめに

現在人類が抱えている重要かつ緊急な課題が三つあると言われている。すなわち「人工問題」「エネルギー問題」「環境問題」がそれであり、このうち、二番目と三番目の二つに本願発明の電力送電システムが関係している。

このような重要な電力システムに関わる本願発明が、判決で述べられている様に引用例1、2、及び3から容易に想到するならば、多くの人が同様な電力システムを考え、既に同様なシステムが現在開示されてしかるべきであるが、出願後一二年以上経ってている現在においてさえ、本願発明者以外による提案がない。

比較的近いと思われるのが、最近提案されたNASAの宇宙ステーション構想における電力系統システムくらいである。そもそも直流送電システム(ここで言うのは従来の直流送電システムであるのはもちろんであるが)は二〇世紀初期にいくつかの建設例があるが、効率の点で交流送電システムに打ち勝てず、廃止された経緯があり、引用例1に示される様な直流送電のそれぞれの構成要素が部分的に単に知られているだけでは、システム全体として有効に機能しないのであり、システム全体としての変換効率や建設費用等を含めた総合的な検討が必要なのである。判決において部分的な当てはめ作用で本願発明の進捗性を否定したのは大きな誤りであり、容易に成しえると言うならば、同様な構成要件によるシステムの引用例を引くべきである。

二、1 構成と作用効果

前述してきたように、本願発明は、

(一)商用の交流を一度交流よりも高い周波数に変換し、

(二)これをトランスにより電圧の昇圧を行い、さらに、

(三)これを直流に変換し、

(四)直流送電を行い、

(五)送電線の終端で直流から交流よりも高い周波数に変換し、

(六)トランスにより電圧の降圧を行い、さらに、それを

(七)商用交流に変換する

という過程を経て行われる電力送電システムである。そして、この電力送電システムに使用する、商用周波数交流から商用周波数よりも高い周波数への周波数変換、およびその逆の周波数変換、さらには、商用周波数交流よりも高い周数変換、およびその逆の周波数変換、さらには、商用周波数交流よりも高い周波数から直流への変換、直流から商用周波数交流よりも高い周波数の交流への変換に際しては、静電誘導サイリスタを使用することにより、<1>トランスの小型化をはかると共に<2>電力効率の高い変換を行い電力システムとしての効率を高くするという極めて優れた作用効果を達成せんとするものである。

本願発明に係る送電システムに用いられる静電誘導サイリスタは、

(イ)高い耐圧を有し、

(ロ)極めて短いスイッチング時間を有するものであることから、

(ハ)周波数応答に優れ、

(ニ)高周波においても使用でき、その結果、

(ホ)トランス効率を最も良い高周波領域で電圧の昇降が可能であり、これをチャンネル中の電位障壁として設定されるゲート電圧で主電流を制御でききる電圧制御型として用いることにより、

上記高効率な変換を可能としたものである。したがって、この静電誘導サイリスタを、本願発明のような送電システムに使用する場合には、従来にない送電システムを構築することができるのである。

第一引用例、第二引用例、第三引用例には、以上のような構成の記載もまた作用効果の記載もない。また、これらを示唆する記載は全くない。

2 各装置の対応関係の認定の誤り

前記第一引用例の記載を見ると、第一引用例記載のものは、交流から直流への変換およびこの逆の変換のみが記載され、その途中で、商用周波数交流を一度商用周波数交流よりも高い周波数に変換し、これをトランスにより電圧の昇圧を行う過程と、送電線の終端で直流から商用周波数交流よりも高い周波数に変換し、トランスにより電圧の降圧を行い、さらに、それを商用周波数交流に変換するという過程の記載がない。

したがって、本願発明における「第二の静電誘導サイリスタ」を具備する整流装置8に入力されるものは、昇圧された高周波交流であり、「第三の静電誘導サイリスタ」を具備した周波数変換装置9が出力するものは、高圧高周波交流であり、他方、第一引用例の第一の変換装置14に入力されるものは、昇圧された商用周波数交流であり、第二の変換装置14が出力するものは、高圧商用周波数交流であるから、本願発明における「第二の静電誘導サイリスタ」及び「第三の静電誘導サイリスタ」が、右第一引用例の「第一の変換装置14」および「第二の変換装置14」の「サイリスタバルブ」に対応するとの原判決の認定は誤りである。

繰り返し述べると、本願発明は、送電側だけで、二段の周波数変換(商用交流→高い周波数の交流→直流)があり、第一引用例記載のものは、一段のみの周波数変換しか記載されてないのである。したがって、一段の周波数変換過程と二段に渡る周波数変換過程とは明らかにその構成が異なるし、対応するものなどは、どこにも記載されていないのである(当業者が容易に発明をすることができたか否かの問題は、本願発明の顕著な作用効果の有無として、後述するとして、ここでは、装置の対応関係について、余りに、無分別な認定をしたことを指摘するに止める)。

3 第一の技術思想の認定の誤り

次に原判決は、「変圧器を高い周波数で動作させることにより、変圧器の小型化が可能であったこと」(原審決の第一の技術的思想)が第二引用例により認められると認定する。確かに、第二引用例の記載は、「X線装置に対する高電圧発生器」に係る発明であり、高圧変圧器中の損失を低く保ちつつ小型化することに一定の効果があるらしいことは認められるが、それは、あくまでも「X線装置に対する高電圧発生器」についてのことであることが原判決では忘れられている。しかも、原判決は第二引用例のX線装置において「変圧器を高い周波数で動作させることにより、該変圧器を小型にすることができる」という一般的ないし抽象化された技術思想(第一の技術思想)が開示されていると認定するが、第二引用例にあっては、X線装置に関するような規模の変圧器の小型化については、高周波変換装置を介在させることによって高圧変圧器中の損失を低く保ちつつこれができるという技術思想は開示されているとはいうものの、高周波変換装置によつて得られた高周波交流をもって変圧器を作動させた場合の変圧器中の損失に関する具体的影響や相関関係については何ら開示していないのであるから、原判決のように、あらゆる場合に、変圧器を小型化するという一般的な技術思想が開示されている、とは断じて言えない。この点において原判決は採証法則を誤っていると言わざるを得ない。

すなわち、第一引用例において開示されている第一の技術思想は、「X線装置等に使用される規模の変圧器おいて、当該電圧器を高い周波数で動作させることにより、変圧器の小型化が可能であったこと」と限定して理解されなければならないのである。「X線装置に対する高電圧発生器」に使用する変圧器は、重いものであってもせいぜい一トン程度の重さのものである(装置自体たかだか数メートル四方の大きさ)のに対し、本願発明である「送電システム」に使用する変圧器は、三〇〇〇トンを遥かに越える重さのもの(変換機器の大きさは、約三〇〇メートル四方にもなる)である。「小型化できる」といっても、その絶対量としては、もはや比較にならない桁違のものなのである。どだい比較すること自体がおかしいのである。第二引用例と本願発明とは技術の分野が異なり、先行技術として、引用すること自体が誤っているとしか言いようがない。ここにも、原判決において当業者の技術水準の理解と掛け離れたものがあり、社会通念に反してなされた認定と言わざるを得ない。本願発明は、そもそもは数GW(キガワット)というような大容量の電力を取扱う「電力送電システム」なのである。遠く離れた距離間に渡って、四〇万ボルトから六六万ボルト程度の高い電圧と数千アンペアという高い電流とによって誘起されるエネルギーを伝達するシステムなのである。これに対し、「X線装置に対する高電圧発生器」は、せいぜい六万ボルト程度の高圧は必要としても、最大で〇・二アンペア程度の極くわずかな電流で足り(甲第一一号証)、送電システムで要求されるような高電流までは必要としない装置なのである(「X線装置に対する高電圧発生器」では、負荷を大きくすることはできない。もし、大きな負荷に使用するとすれば、パルスを維持できず、パルスがつぶれて高圧すら供給できなくなってしまうものなのである)。第二引用例には、エネルギーを伝播するという発想自体が存在しないのである。すなわち、高周波によって変圧器を小型化できるということは知られていたのかもしれないが、それを電力送電システムに応用して、高効率で、かつ、小型なシステムが構築できるということは本願出願前には全く知られていなかったのである(この送電システムが顕著な効果を有し、したがって充分に進歩性を有することは後に詳述する)。

4 第二の技術思想の認定の誤り

原判決は、次のように認定した。

「第二引用例に記載されたX線装置に対する高電圧発生器においては、商用交流からそれよりも著しく高い周波数の交流(パルス状)を、整流器とインバータによって得ているものであると認められるが、整流器からインバータに与えているのは直流であるが、整流器の機能に照らしてみても、整流器に入力される交流電圧の周波数に限定されるものではないことは、当事者に見やすいところであり、一方、インバータから出力される周波数は、その周波数選択素子を適宜選択することによって任意の周波数を選択できることも技術常識に属することである。

このようにみると、第二引用例には、商用周波数よりも周波数の高い交流から商用周波数の交流への変換をも当然に含む任意の周波数の交流から、それとは周波数の異なる他の所望の周波数への変換を行う一般的な周波数変換装置の技術が認識理解されるものと言うべきである。」

しかしながら、第二引用例における整流器からインバータ2に与えているものは、完全な「直流」ではない。ここで得られるものは交流を整流したものにすぎず、単純に言えば、交流サイクルの正の部分(負の部分が○ボルトになつでいる半波)だけのものと考えねばならない。

このようなものと、送電システムにおける受電端において入力される高電圧直流とは全く異なるものである。原判決は、この両者を完全に同一なものと理解したため、第二引用例におけるインバータ2を送電システムの受電側に使用できるように誤解したのである。

すなわち、第二引用例の整流器及びインバータの組み合わせによつては、送電システムにおける受電端において送電された高圧直流を、商用周波数より高い周波数の交流に変換することはできず、また、そのような変換を可能ならしめる装置を一切示唆すらしていないのである。

このような誤解をした原判決は、第二引用例の周波数変換装置である整流器及びインバータ2を送電システムにおける送電側と受電側とで簡単に応用できると認定した。しかしながら、送電側と受電側すなわち昇圧と降圧のいずれにも応用できるのは、変圧器に限られるのであって(事実、原判決は、一次巻線と二次巻線の巻線比を変えるだけとして、昇圧・降圧の両者に適用があるとするが、結局変圧器のことしか考えてない)、変圧器とは異なる構成である周波数変換装置における送電側と受電側の設備装置について、これが全く同じ装置で足りるなどと原判決は考えることによって、簡単に応用できるとしたものである。このように、送電側と受電側の装置が全く異なるものであるにもかかわらず、同じ装置で足りると考えること自体、原判決は技術を知らぬものの論理であると言わざるを得ないのである。例えば、交流を直流に変換する場合には、いわゆる整流器と称される装置で、正弦波の正のサイクル(半波)のみを取り出し、その後、平滑回路によりこれを平坦にすれば良いことは、中学生でも知り得ることである。ところが、直流から交流を作る場合には、そんなに簡単には行かない。その場合には、クロックによって一定の周期でパルスを発生させ、そのパルスを基準に、正負のパルスを発生させ、その後、パルス合成回路等を積み重ねて用いて純正弦波形を有する所定の周波数(これとても限界が自ずとある)の交流に成型することが必要である、一般に、直流を交流に変換することは交流を直流に変換することよりも難しい技術である。それにもかかわらず、とにかくも、原理自体に差異がないとした原判決の認定は、当業者の技術水準の認識を誤りないしは当業者の技術水準の判断について経験則の適用を誤ったものである。

また、第二引用例に記載された「X線装置に対する高電圧発生器」に使用される「インバータ」手段は、非可逆的インバータであるのに対し、本願発明に係る「電力送電システム」に使用されるものは、可逆的インバータである。したがって、引用例に係る「インバータ2」は、低圧の商用周波数交流を整流したもの直流を低圧の高周波交流に変換する機能しかないものである。第二引用例に記載された「インバータ2」を本願のような「送電システム」の受電側に単に入れれば、それで済むという性質のものではないことは、当業者ならば容易に知り得ることである。

原判決は、本願発明が、「変圧器」と「インバータ手段」との組み合わせによって、所定の周波数の変換過程を有する「送電システム」であることに思いをめぐらしてない。送電システムとしては、前記第二引用例記載の「X線装置に対する高電圧発生器」の入力側を出力側に入れ替えても、送電はおろか、いかなる電圧、電流の出力も導き得ないことは、明らかである。原判決は、この点に関する上告人の主張に何ら答えていない。すなわち、上告人は、「受電側の技術が第二引用例には、全く開示されていない」ことを強く主張したが、原判決は、変圧器の入力側と出力側とが容易に置き換えれるとして論理をすり替え、送電システム全体としても、容易に入出力が可逆的に置き換えられると誤って認定している。可逆的に入出力が置き換え可能なのは、送電システムの内、変圧器部分だけなのである。周波数変換装置については入出力が置き換えられるものではない。このように、一部分に過ぎない可逆的置き換えの論理をシステム全体の可逆的置き換えにすり替え認定した点に、原判決は、当事者の技術水準ないし技術を始めとする自然科学一般が有する自然の真理に違背したのである。

低周波交流電力の周波数を変換して種々の機器に使用する例は、今日様々な例に見られる。第二引用例の「X線装置に対する高電圧発生器」はもとより、冷暖房機器や蛍光燈機器、電車の類にまで、多くのものが使用されている。しかしながら、そのような使用例をかいま見ることができるからといって、商用周波数からなる大電力を、より高い周波数に変換して、さらに、直流に変換して、遠くに送電するような本願発明に係るシステムは、本願発明の出願前は、新規なものであった。送電システム全体としては、いまだ、そのようなシステムは存在しなかったのである。

殊に、第二引用例記載の「X線装置に対する高電圧発生器」のものは、パルス電圧を利用した周波数変換のものにすぎない。純正弦波の送電を基本とする「電力送電システム」とは、技術的価値が異なるのである。「電力送電システム」とは電流と電圧がそれぞれ純正弦波を維持し、両方の純正弦波の位相がぴつたり一致していなければならない極めて微妙なシステムである。電流と電圧の波形や位相が乱れると電力は送れなくなるナイーブなシステムである。第二引用例には電圧波形は記載されていても電流波形や電圧と電流の位相の関係は全く示されていない。言葉を変えれば、第二引用例は、本願発明とは技術の分野が異なり、本来、本願発明の進歩性の判断の基礎とすることはできない筈のものなのである。原判決は、この点について、判断を誤り、致命的誤りのある技術的な認定をしたものである。

5 送電効率に関する認定の誤り

原判決は、電力送電システムの送電効率の向上は、それ自体目的ではなく、変圧器を小型にすることに伴って生ずる付随的効果であるかのように捉らえて、電力送電システム全体として見た場合の送電効率を考慮することは必要ないと認定しているが、これこそ、原判決の認定の最も誤りとするところである。

すなわち、本願発明は、前述した

(一)商用の交流を一度交流よりも高い周波数に変換し、

(二)これをトランスにより電圧の昇圧を行い、さらに、

(三)これを直流に変換し、

(四)直流送電を行い、

(五)送電線の終端で直流から交流よりも高い周波数に変換し、

(六)トランスにより電圧の降圧を行い、さらに、それを

(七)商用交流に変換する

という過程を単に寄せ集めてされた発明ではないのである。したがって、ここの技術を捉らえて、この部分は、○○引用例に記載がある。××の部分は、△△引用例に記載があるといった、機械的当てはめ作用だけで、本願発明の進歩性を否定する態度は正しいものではない。何故ならば、発明は、個々の技術の積み重ねではあっても、その組み合わされた全体が、一体として、一つの構成であり、顕著な作用効果が見出し得る場合には、その発明について、当然に進歩性があるものとして認定されなければならないものである。

原判決が、付随的効果に過ぎないとして過小に評価した本願発明についての送電効率について、今一度検討してみると、本願発明に係る送電システムは、静電誘導サイリスタを使用して、商用周波数を、一旦、それより高い周波数に変換し、さらに、それを直流に変換して送電し、受電側では、これを商用周波数より高い周波数に変換した後、さらに、これを商用周波数に変換する電力送電システムである。そして、この際の電圧変換においては、変圧器を使用するのであるが、変圧器においては、その効率を考慮する際には、いわゆる変圧器の鉄心に使用される鉄損が重要となる。この鉄心の鉄損中、ヒステリシス損は、コイルで発生する磁束が横切る鉄心の断面積の二乗に反比例して影響すると共に、また、その交流の周波数にも反比例する(甲第一二号証)。すなわち、変圧器が大型化すれば、その分効率は向上するのであり、また、高い周波数を使用することによっても、効率は向上するのである。

変圧器の小型化と効率は二律背反であると原判決は認定したが、それは周波数を一定に維持した場合に限定され、周波数を増加させれば、変圧器の小型化による効率の悪化を補うだけではなく、より効率を向上させることさえ可能なのである。本願発明は、送電側と受電側に、それぞれ高い周波数への変換の過程を経ることによって、一つは小型な変圧器とすることができ、その結果システムを小型にできるということに加え、周波数を高めることにより電力の送電効率の向上がはかれるのである。

本願発明は、右に述べたように、高い周波数によって電圧の変換を行うものであり、その場合には、さらに、鉄損を少なくすることができるのである。すなわち、前述するように、鉄損は、周波数に無関係なうず電流損と周波数に深く関係するヒステリシス損が合わされたものである。しかも、このヒステリシス損は、周波数に反比例する関係に有るので、周波数が高くなれば、その損失は低くなる。したがって、本願発明は、送電システムにおいて、高い周波数領域において変圧を行うことによって、送電効率を高めることができると共に高い周波数における電圧変換を行うことによってヒステリシス損失を低く押さえることができるのである。このことは、本願発明の顕著な効果である。

原判決は、この点、特に、後者の点に考慮を払うことなく、送電効率は、単に、変圧器の小型化に関するものにすぎないと認定した点において誤りが有り、当業者の技術水準の認識を誤りないしは当業者の技術水準の判断について経験則に違背している。

なお、原判決は、送電効率は、変圧器を小型化したことに伴う付随的な効果にすぎないとして、送電システムにおける送電効率の意味を充分には理解していない。例えば、現在の発電量全体のわずか〇・四パーセント効率が向上するとしても、一年を通じてみれば三〇万キロワット分が節約でき、これはちょうど大きな水力発電所一つ分の発電量に相当することになる。極めて小さな送電効率の改善であっても、電力送電システムにおいては、小さくても無視できない存在なのである。この点、通常は、豊富な電力事情に有る「X線装置に対する高電圧発生器」における変圧器の小型化から生じる効率の改善とは、全く、次元を異にする問題であるし、そうであるからこそ、例え数パーセントの効率の改善であっても、その効果は、極めて大きいものといわなければならない。

三、結語

以上の次第であるから、原判決は、ことごとく技術の常識に反し認定をして、当業者の技術水準の認識を誤りないしは当業者の技術水準の判断について経験則に違背し、その結果、第一引用例、第二引用例及び、第三引用例から、本願発明は容易に推考できたと解したのであるから、特許法二九条二項の解釈適用を誤ったか若しくは採証法則違背、審理不尽、理由不備の違法があると言うべきであり、この違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

以上

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